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近畿圏のマンション市場は新規供給2万戸が定着か。

有限会社市場開発研究所
代表取締役 李 健三

[ 供給を急増させる動きは見られない ]

 図2-①は、08年以降の新規供給戸数を月別に見たものです。リーマンショック(08.9.15)に先行して不動産会社の破綻が続いた為、08年に既に低水準供給に入ってしまっています。マンション市場そのものが前年の07年(大衆マンションは更に早く05年頃より)に不況に転じているからです。これらのことについては改めてレポートします。

図2-①

図2-1

資料:不動産経済研究所
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 供給量は2010年に入り若干回復に転じたかに見えますが、2011年には再び低下するという状況で回復の兆しは見えません。2010年12月以降では月間新規供給2000戸越えは11/10・11/12の2ヶ月しかないという状況です。(注)

 一方、同じ期間の在庫数を見ると(図2-②)、08年末をピークに急減していることが確認できます。在庫の価格調整などの販売努力と新規物件の供給調整により、需要状況が大きく好転していることが分ります。

 とりわけ2010年春以降は新規発売物件の販売も好調であり、在庫水準も急低下し、この1年弱は3000戸前後という状況です。在庫3000戸切れはバブルの年(90/10)以来のことです。

 また、21世紀以降(リーマンショックまで)で最も在庫が少なかったのは05/5で3302戸。在庫4000戸切れは05/3~06/6まで続きました。在庫が少ないときには供給意欲(土地仕込み意欲)が高まります。この頃から強気の仕込みも増加しました。

図2-②

図2-②

資料:不動産経済研究所
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 現在の在庫は超がつく低水準状態ですので、新規仕込み意欲を高めるには充分な筈ですが、残念ながら必ずしも活発ではありません。サブプライム問題以降、供給業者数は減少を続けています(図2-③)。また、これまでの不況後に見られた新規設立業者も、既存不動産会社の分譲マンション事業への参入も、異業種からの参入も殆どありません。

 更に大きくは事業の主体を首都圏にシフトさせる傾向もあり、主要事業者が近畿圏での事業規模を拡大させることも少ないと思われます。短期的に供給増加要因が見出せない状況です。

図2-③

図2-③

資料:不動産経済研究所
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[ 販売は好調だが、需要は量的に勢いを欠く ]

 新規物件の売れ行きは好調です(図2-④)。特に金融危機以降の土地取得物件が発売され始めた2010年春以降は売行きが目立って良く、少ない在庫数を考え合わせると好況ともいえる状況です。しかし、実際には超低水準供給と低水準需要(6掛け供給・7掛け需要化)というのが実態の様です。

 急ピッチで減少を続けてきた在庫数もここ5ヶ月は横這い状態です。また新規供給戸数が2000戸前後以上で在庫が増える(2011年9月-供給1957戸・在庫前月比175戸増、2011年10月-供給2283戸・在庫前月比28戸増、2011年12月-供給2427戸・在庫前月比363戸増)という状況であり、低水準供給量に支えられた高水準成約率といえそうです。(注)

図2-④

図2-④

資料:不動産経済研究所
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 リーマンショック以降の景気対策としての国のバックアップは相当なものがあります。空前の超低金利に加え、過去最大規模の住宅減税・贈与税の非課税枠拡大・フラット35の拡充・住宅エコポイント等々。

 住宅金融公庫がなくなったとはいえ、フラット35登録物件が一般化していることを考えれば、拓銀・山一ショックから脱却しマンションブームをつくった98年終盤の施策に十二分に比肩する政策的バックアップが実施されているといえます。にも拘らず、需要量のほうは量的勢いを欠いているわけで、残念ながら需給両面とも2万戸市場定着といえそうです。

[ 購買力の低下が市場縮小要因 ]

 業者数の減少と供給意欲の低下が供給側からみた2万戸市場要因といえるでしょう。無論、背景としてお金が融通されない金融の要因もあります(世界金融危機と分譲マンション市場については別の機会に記します)。しかし、需要が旺盛であれば供給意欲が向上し、市場拡大も見込まれますが、残念ながら、需要者の購買力は大幅に低下しているのが実情です。

  • イ.下がり続ける給与(図2.-⑤)
  • ロ.その結果としてマンション購入者のメインである年収400万円以上借家世帯の急減。(近畿圏のそれは98年―112.7万世帯、03年―88.8万世帯、08年―83.2万世帯。住宅土地統計調査より)
  • ハ.若年非正規雇用者の急増。 正規雇用が減少。(労働力調査によれば、全国の25~34歳雇用者の内、正規雇用は86%で、02年の80%水準。
  • ニ.貯蓄無し世帯の増加。(「2011年家計の金融行動に関する世論調査」によれば、28.6%で過去最高)

図2-⑤

図2-⑤

統計元:国税庁 2010年
民間給与実態統計調査結果
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 などなど。私共が業務上良く使う年収階層別集計のある公的データは住宅土地統計調査ですが、最新は08年10月1日現在の数字です。つまり、リーマンショック直後のそれ。所得低下はリーマンショック後により厳しくなっている為、今現在の需要ポテンシャル(上記ロ.で示した数値)は更に下がっている可能性大です。

 以上に加え、少子高齢化や親同居未婚成人の急増・その親世代のリタイアなどポテンシャルダウンが今後も継続する、深刻になると思わせる指標は多々あります。

 ところで、平均年収のピークは97年(山一ショック年)であり、近畿圏の年収400万円以上世帯数のピークも98年調査です。マンション市場は97~98年と不況期に入りますが、住宅減税などの政策後押しもあって、僅か2年弱で不況を脱し、4年連続で3万戸台後半の需要を見るわけです。これまで、マンション市場の好況は様々な景気指標の好転に先行して訪れています。経済波及効果が大きい故に、景気浮揚の為の政策的バックアップが得られるというのもその要因です。景気が拡大局面に入ったのはマンション市場の好転により3年強遅れた02年2月からです。以降、“いざなぎ越え”といわれる最長の景気拡大局面に入るわけですが、給与は下がり続けます。景気拡大局面における所得低下もかつてない現象です。このことに象徴される00年代の環境・構造の変化が現在の購買力の低下・需要不足を生んでいると考えられます。

 この間に起こった大きな変化、それは格差の拡大です。次回はマンション市場に関わる格差について考察します。

(注)先頃発表された2012年3月の新規供給戸数は2316戸を数えながら、初月成約率78.5%、在庫は前月比55戸減少と好調でした。このこと自体は無論喜ばしいことです。しかし、1~3月期は現在の最需要期です。ちなみにリーマンショック年以降の1~3月の需要戸数は08年6056戸・09年5691戸・10年4983戸・11年5181戸・12年5107戸です。やはり需要不足状態が継続していると見られます。

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